まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

人文系研究者を目指すならバーンレートを意識してみよう

 

デフォルトで生きているのか、死んでいるのか

——ポール・グレアム(Yコンビネーター)

 

はじめに

 今回は「人文系研究者を目指すならバーンレートを意識してみよう」というタイトルで書きたいと思います。

 今回のテーマで書こうと思ったのは、TwitterのTLでしばしば見かけた以下のリンク先が気になったからです。

times.abema.tv

 このドキュメンタリーの内容をざっくりまとめると、大学院重点化政策という国策によって博士号取得者の数を増やしてきたものの、大学に就職する場合にはポストが限られており、また民間に就職するにしても博士号取得者の受け入れ先は現状1割程度しかない為、博士号取得者の供給が就職市場に対して過剰になっている、という内容でした。

 私も国立大学大学院の修士課程に進学し、無事修了しておりますが、自分はそこで専任教員として就職するほどの実力が無いという身の程を自己認識し、博士課程進学を断念した身ですので、このドキュメンタリーで描かれている内容が、自分にもあり得たかもしれない可能性としての未来の一つとして、重く受け止めました。

レッドオーシャンとしての博士号取得者の専任採用

 大学院に進学して博士号を取得したからといって、大学の専任講師として就職できるわけではありません。これが一昔前の大学であれば、そもそも大学院に進学する母数が少なかった為、およそ博士号を取得しなくとも大学へ就職できた時代もあったと思います。しかしながら、上に掲げたドキュメンタリーでも述べられている通り、大学院重点化により博士号取得者が供給過剰な状態で、とりわけ人文系教員のパイは増えるどころか減っているような状況であれば、博士号取得者が全員専任講師として就職できるわけが無いことは、すでに明白です。

 とは言え、就職できなくとも博士号取得者は人間なので、生活するための一定のお金が必要になります。しかし、博士号取得者が非常勤講師(アルバイト)として働く場合の賃金がドキュメンタリーで紹介されている通り月十数万円程度なのであれば、文字通り食っていくのが困難になります。

人文系研究者を目指すならバーンレートを意識してみよう

 人文系に限らず研究者はスタートアップのようなものです。なぜなら、研究活動は新しい知見を発掘するために行われるものであり、それゆえスタートアップのように実際にやってみないと成功するかどうかが分からないところがあるからです。

 ところで、スタートアップにはバーンレートという概念があります。

medium.com

 バーンレートとは、月ごとの資金燃焼率のことです。会社を経営するのに一ヶ月にいくらかかるのか。企業はお金(手元流動性のある現預金など)が無くなったらおしまいですので、バーンレートが高くて売上が立たないとそれだけ早く倒産してしまう恐れがあります。なので倒産しないように投資家から資金調達してくる必要があります。

 これは研究者にも言えることで、修士課程や博士課程を経てどこかに就職するまでに毎月かかる学費や生活費や研究費等々が、いわば研究者のバーンレートに該当します。もし院生でも学振やアルバイト、非常勤講師、あるいは二足の草鞋で民間企業に就職していたりすれば、バーンレートと差し引きしてネットのバーンレートがプラス(赤字)になったりマイナス(黒字)になったりするでしょう。

 自分の研究テーマに市場性を有しており将来有望なら大きく赤字を掘っても良いかもしれませんが、とりわけ人文系研究者の就職先はレッドオーシャンなので、なるべく早期に黒字に持っていきたいところです。

 ただし、奨学金はいわば有利子負債である故、投資家に対するリターンを確約できるぐらいの研究でなければ、ただでさえ高いリスクをより高めることになります。

YouTubeでアカデミックな内容を発信してみよう

 そもそも事実上、人文系研究者は大学の専任講師に就職するのが難しいのですから、大学以外のところに食い扶持(収益源)を確保しておくことが、物質的基盤に支えられている普通の人間としての生き残り策になり得ます。

 では、どうやって大学以外のところに食い扶持(収益源)を確保したら良いのでしょうか。

 今はインターネットというものがあるので、昔と違って個人の力で世界に発信することができるようになっています。

 スマホのモバイルデータ通信やWiFiなどの環境が広く整ってきたことを背景に、最近では、動画コンテンツが大きな趨勢をしめるようになってきています。YouTubeには教育系コンテンツが増えてきており、スマホで自分の専門分野を語るだけでも十分コンテンツとして成立できます。

 下の動画は「中田敦彦YouTube大学:答えのない学問【哲学】時代の常識を疑え〜古代の西洋哲学史〜①」です。

 この動画は全3回に分かれていて、それぞれ約20分x3コマの授業に分かれています。その短い動画の中で、一般視聴者でも興味が持てるような内容で(古代)ソクラテスプラトンアリストテレスから始まって、(近代編)デカルト→カント→ヘーゲルなどを経て、(現代)キルケゴールバタイユなどへと進んでいきます。

 僕はこの動画を見て正直すごいと思いました。それはなぜか。

 大学の哲学概論などで通年で授業をやった場合、学生の立場からすれば長すぎますし退屈です。学生はバイトなどでしばしば授業に参加しなかったり、寝ていて聞いていないかもしれません。もちろん大学では興味のない授業を卒業単位取得の為に強制的に受けさせることで、学生が思わぬ刺激を受けるということもあるかもしれませんが、学生がリアクションペーパーに適当なことを書いてただ出席した気になるぐらいなら、上の中田敦彦さんの動画を自分の好きなタイミングで視聴して哲学に興味を持って聞いてもらった方が、学生にとってよっぽど学習効果が高いかもしれないなと思ったからです。

 とは言え、中田敦彦さんは芸人であり、喋りのプロですから、人文系研究者を目指す人々が同じようにはできないよ、と思われるかもしれません。

 しかしながら、在野研究者の荒木優太さんやネオ高等遊民さんのように、アカデミックな内容をすでに動画コンテンツとして流通させている方々がいらっしゃいます。

いきなりプロを目指すのではなく、彼らのような発信の仕方を参考にしてみてはいかがでしょうか。

noteやニコニコ動画などでマネタイズに挑戦してみよう

 もちろんYouTubeだけで収益化を図ることは難しいと思います。なので、メンタリストDaiGoさんのように、YouTubeニコニコ動画の両方で生放送をして、YouTubeは動画の途中まで(トータル60〜72分の放送のうち12〜24分ぐらい)の無料放送として、よりディープな内容を扱う続きの放送はニコニコ動画でやってユーザーに課金してもらうことでマネタイズする方法もあります。

 また自分のメインの研究テーマでなくとも書けるテーマでnoteに書いて、人気が出てきたらテクストの一部を有料化するという方法もあるかもしれません。