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全然ロジカルじゃない(!)書きたいことをひたすら書くブログ

全然ロジカルじゃない(!)書きたいことをひたすら書くブログです。ノンロジカルエッセイ。

【読書メモ】マーク・ジェフリー『データ・ドリブン・マーケティング』

マーク・ジェフリー『データ・ドリブン・マーケティング』(ダイヤモンド社、2017年)を読んでみた。

 邦訳の180頁にこんなくだりがあった。

 ジェフリーは携帯電話が故障してしまったため、朝早くケータイショップに行ったが、店員は「45分待ちです」と譲らず、「すぐに空港に向かわなければならない」といっても対応してもらえなかったため、後日家族全員のケータイ・固定回線もろとも解約し、他キャリアに移ったという。ジェフリーは、店員が平等に顧客に接することに問題があると考える。むしろ優良顧客は優先して対応すべきだ、というのがジェフリーの主張である。

 ジェフリーは、自分の主張が単なるわがままと思われないように数字上の裏付けを持ち出す。「上位8%のB2B顧客群が、全体の売上の93%を占めている」のだから、優良顧客は大事にすべきだ、とジェフリーは考える。それゆえ、自分はその優良顧客に属するはずなのに、優遇されなかったという不満をジェフリーはほのめかしているように読み取れる。

 ジェフリーの説明には二つの問題点がある。

 第一に、ジェフリーがB2Cのケースに対してB2Bの数字を持ち出している点である。「上位8%の顧客群が、全体の売上の93%を占めている」というB2Bの数字は、B2Cのケースで考えると現実味がない。別の箇所では、ある携帯電話会社では「18%の顧客によって55%の価値がもたらされている」(邦訳185頁)と説明されており、こちらの数字の方がまだB2Cのケースを説明するのに説得的である。

 少なくともここでジェフリーが主張したいのは、「顧客生涯価値」(CLTV)の分布において「80対20の法則に近い現象が起こっている」(185頁)のであって、要するに一部の優良顧客がCLTVの大半を占めているのだから、優良顧客は大事にしようということである。この主張自体に異論はないし、もっといえば「総CLTV」を増やすことこそが重要であるといえる。このことをジェフリーは「自社の顧客全体のCLTVを理解し、その最大化を図るのが新たなマーケティング戦略の手法だ」(206頁)と表現している。ジェフリー自身は本書で「総CLTV」という言い方をしておらず、私が勝手に導入した概念であるが、「総CLTV」とは高価値・中価値顧客群のプラスも低価値顧客群のマイナスも含めて全てのCLTVの総計のことである。「総CLTV」は186頁の図表6.3のCLTV分布を積分したものである。「総CLTV」を増大させるためには、高価値顧客群のCLTVを維持するだけでなく、中価値顧客群のCLTVを増大させ、低価値顧客群を減少させることが効果的であることが、ジェフリーの説明から読み取れる。

 第二に、ジェフリーは、店員が平等主義を捨てて優良顧客を優先することによって、先に並んでいた顧客のクレームが発生し、クレーム対応に時間を消耗するという可能性を考慮していないように思われる。というのも、店員は、先に来ていた顧客に「なぜ後から来た顧客を優先的に対応するのか」を説明しなければならなくなるかもしれないからだ。 

 

 では、店に入った時にその顧客が「優良」かどうかを見極め、優先的に対応するにはどうしたらいいだろうか。

 

 まず前提として、顧客一人一人のCLTVを算出し、リアルタイムで参照することができる仕組みを作ることが必要である。

 しかし、仮にジェフリーよりも先に来ていた客がジェフリーと同等のCLTVである場合には、来客した順番で対応せざるを得なくなり、結局ジェフリーを優先して対応する理由はなくなる。

 だとすれば、むしろ本当に必要なのは、来店時の「お急ぎ」のサインかもしれない。例えば、来店時の発券ボタンに「お急ぎですか?」「はい・いいえ」の選択肢を設ける。あるいは、Amazonプライムのように多少多く年会費を払って「お急ぎ便」のような優先サービスを利用可能にするのはどうだろうか。とはいえ、もちろんこれも全員がプライム会員になってしまえば、皆同じ条件になってしまうのだが。

 

 次に、CLTVをリアルタイムで参照できるようにしたとして、優良顧客かどうかを入店と同時に即座に判別するにはどうしたら良いだろうか。技術的には次の案が考えられる。

 

(案1)入り口で機械にスマホをかざす。

 スマホから支払い状況を確認する。しかし、これはスマホが壊れていたりバッテリー切れの状態だと対応できない可能性が高い。

 

(案2)顔認証システムを導入する。

 これはセキュリティ対策にもなる。導入コストが抑えられるならば可か。「マイノリティ・リポート」(トム・クルーズ主演、2002年)の世界になりそうだ。

 

 以上のやり方で、入店と同時に「優良顧客」だと判明し、待ち時間なしに対応してもらえたとする。しかし、実際には端末の故障を確認し、代替機と交換するにも時間がかかる。その場合でも、優良顧客は「交換するのにいつまで待たせるんだ」と言い始めかねない。

 そうすると、店舗での交換以外に何か対応する方法はないだろうか。

 

(案3)予備の端末を携帯する。

 優良顧客には、メイン端末にさらに予備としてもう一台端末を携帯していただくことが望ましい。メイン端末が壊れても、予備の端末はSIMカードを差し替えるだけですぐ使える。データはクラウドでバックアップしたものを読み込んでいただければ良いだろう。もちろん売上の大半を占める「優良顧客」なのだから、予備の端末は割引価格で事前に購入できる。これでわざわざ待ち時間の長い実店舗に足を運んでいただく必要もなくなり、解約される可能性も減るだろう。予備の端末の事前購入によって、販売台数も増えてwin-winである。マーケティングの観点からすれば、これが正解だろう。