まだ先行研究で消耗してるの?

真面目に読むな。論理的に読むな。現実的なものは理性的であるだけでなく、実践的でもある。

読書前ノート(20)A・S・バーウィッチ『においが心を動かす——ヒトは嗅覚の動物である』

A・S・バーウィッチ『においが心を動かす——ヒトは嗅覚の動物である』(太田直子訳、河出書房新社、2021年) 「におい」を忘れずに哲学できるか 「におい」という存在をすっかり忘れていた。このことに気がついたのは、昨日ルミネの化粧品売り場を通りかかっ…

読書前ノート(19)アントワーヌ・アルノー/ピエール・ニコル『ポール・ロワイヤル論理学』

アントワーヌ・アルノー/ピエール・ニコル『ポール・ロワイヤル論理学』(山田弘明・小沢明也訳、法政大学出版局、2021年) 「ロジック」をどう教えるか 4月に入り、私にも社内異動があり、部下は2人から8人へ増えた。——増えすぎじゃないかー?——増えた部下…

弊社の販売契約社員5年満期雇い止めに妥当性はあるか(2)

sakiya1989.hatenablog.com 「ブラック企業」*1とはこのことか、と思った。「ブラック企業」とはもちろん弊社(ソフトバンク株式会社)のことである。こんなことを書いたら私は弊社から訴訟を起こされても仕方がないと思うが、「ブラック企業」という評価に…

弊社の販売契約社員5年満期雇い止めに妥当性はあるか

元部下から連絡がきた。 「お世話になりました。」 当然知ってはいたが、今月で弊社を辞めるのだという。 ちょうど一年前まで自分が担当していた。働きぶりも良く、雇い止めになるという事実は受け入れ難い。 自分が販売契約社員だったときには5年経ったら無…

読書前ノート(18)藤原辰史『植物考』

藤原辰史『植物考』(生きのびるブックス、2022年) 「植物性」とは何か 先日仕事でトラックを待っていたら、予定の時刻になってもトラックが到着せず、ドライバーから遅延の連絡もなかったので、ただひたすらボーッと景色を眺めていた。その際に、一つの植…

ヘーゲル『宗教哲学講義』覚書(2)

目次 ヘーゲル『宗教哲学講義』(承前) 対象となる宗教はどのような領域か (1)マールハイネケ版(1832年) (2)B. バウアー版(1840年) 文献 sakiya1989.hatenablog.com ヘーゲル『宗教哲学講義』(承前) 対象となる宗教はどのような領域か Der Gege…

ヘーゲル『宗教哲学講義』覚書(1)

目次 はじめに ヘーゲル『宗教哲学講義』 序文 宗教哲学のコンテクスト 文献 はじめに 本稿ではヘーゲル『宗教哲学講義』(夏学期1827年、GW版2021年)を読む。 ヘーゲルの『宗教哲学講義』は、我々にとってヘーゲルのテクストの中でも最も取っ付きにくいも…

読書前ノート(17)D. F. シュトラウス『イエスの生涯』

D. F. シュトラウス『イエスの生涯』(岩波哲男訳、教文館、1996年) ヘーゲル左派運動はここから始まった ドイツの宗教批判は本書から始まり、フォイエルバッハやバウアー、マルクスへ影響を与えた。著者のダーフィト・シュトラウス(David Friedrich Strau…

マルクス「ユダヤ人問題によせて」覚書(2)

目次 マルクス「ユダヤ人問題によせて」(承前) ブルーノ・バウアーの著作への書評という形式 文献 sakiya1989.hatenablog.com マルクス「ユダヤ人問題によせて」(承前) ブルーノ・バウアーの著作への書評という形式 マルクス「ユダヤ人問題によせて」 ブ…

読書前ノート(16)佐藤貴史『ドイツ・ユダヤ思想の光芒』

佐藤貴史『ドイツ・ユダヤ思想の光芒』(岩波書店、2015年) 20世紀ドイツのユダヤ思想 本書では、主に20世紀のドイツ・ユダヤ人思想家たち——ヘルマン・コーエン(Hermann Cohen, 1842-1918)、マルティン・ブーバー(Martin Buber, 1878-1965)、ゲルショム…

マルクス「ユダヤ人問題によせて」覚書(1)

目次 はじめに マルクス「ユダヤ人問題によせて」 問題関心の類型 文献 はじめに 本稿ではマルクス「ユダヤ人問題によせて」(Zur Judenfrage, 1844)の読解を試みる。 「ユダヤ人問題によせて」は、1844年にマルクスがルーゲと共同編集でパリで出版した『独…

清少納言『枕草子』覚書(3)

目次 清少納言『枕草子』 第二段 月からみた一年 文献 sakiya1989.hatenablog.com 清少納言『枕草子』 第二段 月からみた一年 北村1674(早稲田大学図書館古典籍総合データベース:文庫30_e0094_0001_p0007) 頃は、正月。三月。四・五月。七月。八・九月。…

清少納言『枕草子』覚書(2)

目次 清少納言『枕草子』 第一段 春夏秋冬と陽の光 文献 sakiya1989.hatenablog.com 清少納言『枕草子』 第一段 春夏秋冬と陽の光 北村1674(早稲田大学図書館古典籍総合データベース:文庫30_e0094_0001_p0006) 北村1674(早稲田大学図書館古典籍総合デー…

清少納言『枕草子』覚書(1)

目次 はじめに 文献 はじめに 以下では清少納言『枕草子』を読む。 さしあたり、何を底本として参照するのかという問題がある。今回は早稲田大学図書館古典籍総合データベースより北村季吟『枕草子春曙抄』(1674年跋文)を参照することができた。 北村1674…

ヘーゲル『法の哲学』覚書:「世界史」篇(3)

目次 ヘーゲル『法の哲学』(承前) 世界史(承前) オリエント帝国 ヘーゲルの〈オリエンタリズム〉 ヘーゲルの乱暴な「オリエント」論 文献 sakiya1989.hatenablog.com ヘーゲル『法の哲学』(承前) 世界史(承前) オリエント帝国 第355節 (1)オリエ…

山口周氏の「怒り」についてのTweetをめぐって

目次 はじめに 筆者とQmQさんとのやりとり かつて筆者は「怒り」についてどのように考えていたのか はじめに 先日、Twitter上で山口周(@shu_yamaguchi)さんが「怒り」について次のようにTweetしていた。 古代ギリシア以来、哲学者は「怒りは正しいか」とい…

成田悠輔「集団自決」発言について(3)

目次 筆者と小田さんとのやりとり(2) sakiya1989.hatenablog.com 筆者と小田さんとのやりとり(2) 昨日までに整理した点を踏まえて、ヘーゲル法哲学における「集団自決」の位置付けをめぐって、昨日、筆者(荒川)と小田さんとのTwitter上で再びやりと…

成田悠輔「集団自決」発言について(2)

目次 筆者と小田さんとのやりとり(1) 成田氏の「集団自決」発言は経済合理性に基づいているか 文献 sakiya1989.hatenablog.com 筆者と小田さんとのやりとり(1) 成田氏の「集団自決」発言の件については、Twitter上で熱りが冷めてきているので、今更書…

成田悠輔「集団自決」発言について(1)

目次 はじめに 成田悠輔「集団自決」発言の文脈 「口にしちゃいけないって言われてることは、だいたい正しい」 「高齢者は集団自決すべき」は「人としての倫理を大きく踏み外している」のか? 老害化する「前」と老害化した「後」 はじめに 約1年前に成田悠…

Reading Hobbes “Leviathan”. No.3.

Contents Hobbes, Leviathan, 1651. Part I. Of Man. Chap. I. Of SENSE. (continued.) The SENSE as the Originall of the Thoughts of man Bibliography sakiya1989.hatenablog.com Hobbes, Leviathan, 1651. Part I. Of Man. Chap. I. Of SENSE. (continu…

2022年に書いた記事を振り返る

目次 はじめに 2022年に書いた記事まとめ(全80本) 1月(ヘーゲル世界史、バウムガルテン美学、読書前ノート) 2月(読書前ノート、ヘーゲル抽象法) 3月(数学、読書前ノート、ヘーゲル世界史) 4月(執筆なし) 5月(フォイエルバッハ『将来の哲学の根本…

「産婆術」というレトリックに対する疑念

ソクラテス これに対して、わたしがおこなっている助産の技術には、産婆たちがかかわる全部のことが入ってくるが、ただし婦人をでなくて男性を介助すること、および、かれらの魂が生むのを見守るのであって、身体が産むのを見守るのではないこと、これらの点…

『リコリス・リコイル』から組織内の不条理な処分について考える

はじめに 今回は、TVアニメ『リコリス・リコイル Lycoris Recoil』(足立慎吾、アサウラ、いみぎむる、A-1 Pictures、2022年)から組織内の不条理な処分について考えたいと思う。 『リコリス・リコイル』の主人公は錦木千束(にしきぎちさと、以下「千束」)…

読書前ノート(15)トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』

トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』(加藤節訳、筑摩書房、2022年) 完訳として刷新された『リヴァイアサン』 加藤節先生にはすでにアーネスト・ゲルナー『民族とナショナリズム』(岩波書店、2000年)やジョン・ロック『完訳 統治二論』(岩波書店、2014年…

読書前ノート(14)山本貴光(著)・橋本麻里(編)『世界を変えた書物』

山本貴光(著)・橋本麻里(編)『世界を変えた書物』(小学館、2022年) その時代の豊穣な内容を綴じ込めた原著初版を観覧する こんなに面白い本があるだろうか。本書は科学技術に関する重要な著書の図録である。高校の物理・化学の授業で聞いたような名前…

日銀「イールドカーブ・コントロールの運用の見直し」

イールドカーブ・コントロールの運用の見直し 日銀が「イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用の見直し」を発表した*1。 (日銀HP「イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用の見直し」2022年12月20日) 長期金利の変動幅拡大(±0.25%→±0.5%)に関して…

Reading Hobbes “Leviathan”. No.2.

Contents Hobbes, Leviathan, 1651. Part I. Of Man. Chap. I. Of Sense. (continued.) Bibliography sakiya1989.hatenablog.com Hobbes, Leviathan, 1651. Part I. Of Man. Chap. I. Of Sense. (continued.) (Hobbes 1651: 3) First of all, Hobbes examine…

Reading Hobbes “Leviathan”. No.1.

Contents Introduction Hobbes, Leviathan, 1651. Part I. Of Man. Chap. I. Of Sense. Bibliography Introduction How should Hobbes' Leviathan be read today? I would draw the auxiliary line of 'anatomy' there. An interesting aspect of Hobbes' Le…

ヘーゲルと医学——解剖学・有機体・病理学(2)

目次 ヘーゲルの「病気」概念:孤立と自立 文献 sakiya1989.hatenablog.com ヘーゲルの「病気」概念:孤立と自立 本稿では、ヘーゲルがいわゆる『法哲学』で政治社会を有機体に擬えて論じた次のパラグラフについて考察してみたい。少し長くなるが前後の文脈…

フーコー「社会医学の誕生」覚書(3)

目次 フーコー「社会医学の誕生」(承前) 序(承前) 社会医学の三つの源泉:ドイツ国家医学・フランス都市医学・イギリス労働力医学 文献 sakiya1989.hatenablog.com フーコー「社会医学の誕生」(承前) 序(承前) 社会医学の三つの源泉:ドイツ国家医学…